有機栽培に関する環境上の問題点
2009年3月26日 日常 今となっては消費者には対岸の火事ですが・・・
有機栽培の厄介なところは、殆どの場合信念と信仰で行われていて、その管理が殆ど判っていない(信念が間違っていることを公表することがどれくらいあるかと言う問題)のですが
・土壌中に水溶性リン酸が100mg/100g以上観測されるような果樹園土壌の出現
日本土壌肥学雑誌に載った、ある面でセンセーショナルだったシンポジウム論文。安心して欲しいのは、これによって果樹に病害・虫害が出ることは無いこと。ただし慣行の施肥管理では水溶性リン酸が検出されるようなら、リン酸施肥はすべきではない。一つにはリン酸肥料が勿体無いし、リンは水系の富栄養化を窒素以上に促す。このような土壌が有機栽培で発生するのは、有機栽培で使う肥料が比較的リン酸に富んでいないと窒素が足りなくなること、窒素・リン酸・カリの三大要素の配分を土壌に応じて変えることが事実上無理なこととによる。
・カリ過剰による障害
これは有機ではないが、愛媛県農業試験場報告に一例のみ認められたカリ過剰症としての報告。牛糞堆肥を多く施用していたみかん園で発生したが、牛糞堆肥は基本カリ過剰なのと、野菜のハウス栽培では既に潜在的に多く起こっている(少なくとも、私は岩手県で困っていると言う話を結構聞いた)。
牛糞尿堆肥だけで栽培した牧草やデントコーンを食べさせすぎると、牛が硝酸態窒素が多すぎてアシドーシスを起こすか、またはカルシウム+マグネシウムに比してカリウムが多すぎてグラステタニーを起こす。ただし、飼料作物はそんな程度でへこたれない。回避策としては野積みして雨にさらしてカリを抜くことだが、それをやると窒素も抜けるので、やはり水系汚染になることから現在は法律で禁じられている(耕種農家がやっているのも見てはいるが・・・)。この辺りのバランスを取るのはかなり難しいようで、文献検索するとかなりヒットする。
有機で野菜、かつ硝酸・カリが過剰でないというとき、どういう肥料を使っているのか。
まあ、ありがたいことに人間は雑食なので、グラステタニーを起こした例は無いから、野菜がどんなにカリリッチでも問題は無いのだろう。アシドーシスも然り・・・成人なら。
#離乳期の乳児は知らない
・有機栽培米の米ぬか除草
湛水した水田に多量の米ぬかをまき落水させ、土壌を強還元状態において水稲以外の雑草を枯らす方法。問題は、易分解性有機物を撒いての強還元状態に置いた時に温室効果ガスのメタンが多量に出る、米ぬかの膨大な肥料成分が流出することで水が富栄養化する。八郎潟なんかただでも水汚染が厳しいところにこれをやられると・・・まあ少ないからいいけどってことらしい。
「おいしい米はどこが違うか」によると、有機でも慣行でも味は変わらないという。有機栽培の手引書にあったアゾラ農法も、試算上は窒素収支は慣行栽培と同じ。くず米を通して生ふんを与える合鴨農法も同じくらいのよう。合鴨農法は食味に疑問がつくと言う話も聞いている。
他、総則
・基本、植物は無機態の肥料成分を吸収する
阿江教治教授がコマツナだかである程度大きな分子の有機体窒素を吸収できると言う研究を発表しているというのが例外的で、植物は窒素なら硝酸態かアンモニア態の無機態窒素を吸収する。「野菜が壊れる」では有機由来の硝酸と化学肥料の硝酸に違いがあるんじゃないかなんて書いてあったが、証拠は?
#15Nの割合が違う、と言う話はあるけど、植物生理上違いは無い。
・化学肥料の利点は効きを調整できること
水稲の場合は成長をきれいに制御することが出来、蛋白含有率を抑えておいしい米が簡単に作れる。この調整可能であることを元にトマトなど果菜類では、栄養診断しながら施肥することも出来る。この辺りをどう有機でやっているのかは誰も明らかにしていない。栄養診断は、施肥削減を目的に実施され、簡単なパックテストで誰でも出来るしオーダーメイド施肥として農協が斡旋している時もある。
・肥料の過剰は大抵の場合作物には問題が無い
植物に影響が出る前に水系など環境の方がセンシティブであると言っていい。日本の農業では窒素過多以上にリン酸過剰をいかに削減するかと言う状況にある(それを策定しろと言う研究上の命令が・・・)。生の有機資材を使うのでなければ、普通の有機質資材は燐酸が比較的多い。生の有機資材を使うことは、アンモニア発生など土壌に過大な負荷をかける。
・有機農業は生産性が低い
唯一、有機農業が慣行農業に比べて環境負荷が少ないとする科学的根拠ある話は、ドイツのHaas博士はじめ、LCAの論文に登場する程度である。それも、同じ生産量を確保するためならより多くの土地を必要とするため土地面積辺りの環境負荷は少ない、とするだけで、生産物辺りの環境負荷は慣行と有機で同等であるというのもほぼ一致した見解だ。だが、日本・アジアの有機農業で真っ当にアセスメントが行われた例は無い。
・有機農産品がおいしいのは適時収穫だから
ずいぶんと苦労した割成果の無い農業試験場の会議資料レベルの報告で、査読論文で挙がった例は無い。況や、おいしいとする事実は同好会単位であって、査読論文で上ったことも無い。
それでも、豊かな食の幅を広げる、と言う意味で、有機農産品と言う乙な味を提供することは、消費者には重要だろう。韓国の有機農業研究所の知人が来たら、きっと有機食材のレストランに「日本流」を見せに出るし(つくばに一軒ある)、ムスリムの人には安心して食べてもらえるからマクロビの店(高山市にある)を紹介するだろう。
・・・農水省で韓国の人を迎えた時数日間弁当生活で、私の職場に来たとき近くの中華料理屋で食べたら、それが一番旨い飯だと言われた日にゃあ・・・日本の食は有機云々以前の問題か?と震撼したけど。
有機栽培の厄介なところは、殆どの場合信念と信仰で行われていて、その管理が殆ど判っていない(信念が間違っていることを公表することがどれくらいあるかと言う問題)のですが
・土壌中に水溶性リン酸が100mg/100g以上観測されるような果樹園土壌の出現
日本土壌肥学雑誌に載った、ある面でセンセーショナルだったシンポジウム論文。安心して欲しいのは、これによって果樹に病害・虫害が出ることは無いこと。ただし慣行の施肥管理では水溶性リン酸が検出されるようなら、リン酸施肥はすべきではない。一つにはリン酸肥料が勿体無いし、リンは水系の富栄養化を窒素以上に促す。このような土壌が有機栽培で発生するのは、有機栽培で使う肥料が比較的リン酸に富んでいないと窒素が足りなくなること、窒素・リン酸・カリの三大要素の配分を土壌に応じて変えることが事実上無理なこととによる。
・カリ過剰による障害
これは有機ではないが、愛媛県農業試験場報告に一例のみ認められたカリ過剰症としての報告。牛糞堆肥を多く施用していたみかん園で発生したが、牛糞堆肥は基本カリ過剰なのと、野菜のハウス栽培では既に潜在的に多く起こっている(少なくとも、私は岩手県で困っていると言う話を結構聞いた)。
牛糞尿堆肥だけで栽培した牧草やデントコーンを食べさせすぎると、牛が硝酸態窒素が多すぎてアシドーシスを起こすか、またはカルシウム+マグネシウムに比してカリウムが多すぎてグラステタニーを起こす。ただし、飼料作物はそんな程度でへこたれない。回避策としては野積みして雨にさらしてカリを抜くことだが、それをやると窒素も抜けるので、やはり水系汚染になることから現在は法律で禁じられている(耕種農家がやっているのも見てはいるが・・・)。この辺りのバランスを取るのはかなり難しいようで、文献検索するとかなりヒットする。
有機で野菜、かつ硝酸・カリが過剰でないというとき、どういう肥料を使っているのか。
まあ、ありがたいことに人間は雑食なので、グラステタニーを起こした例は無いから、野菜がどんなにカリリッチでも問題は無いのだろう。アシドーシスも然り・・・成人なら。
#離乳期の乳児は知らない
・有機栽培米の米ぬか除草
湛水した水田に多量の米ぬかをまき落水させ、土壌を強還元状態において水稲以外の雑草を枯らす方法。問題は、易分解性有機物を撒いての強還元状態に置いた時に温室効果ガスのメタンが多量に出る、米ぬかの膨大な肥料成分が流出することで水が富栄養化する。八郎潟なんかただでも水汚染が厳しいところにこれをやられると・・・まあ少ないからいいけどってことらしい。
「おいしい米はどこが違うか」によると、有機でも慣行でも味は変わらないという。有機栽培の手引書にあったアゾラ農法も、試算上は窒素収支は慣行栽培と同じ。くず米を通して生ふんを与える合鴨農法も同じくらいのよう。合鴨農法は食味に疑問がつくと言う話も聞いている。
他、総則
・基本、植物は無機態の肥料成分を吸収する
阿江教治教授がコマツナだかである程度大きな分子の有機体窒素を吸収できると言う研究を発表しているというのが例外的で、植物は窒素なら硝酸態かアンモニア態の無機態窒素を吸収する。「野菜が壊れる」では有機由来の硝酸と化学肥料の硝酸に違いがあるんじゃないかなんて書いてあったが、証拠は?
#15Nの割合が違う、と言う話はあるけど、植物生理上違いは無い。
・化学肥料の利点は効きを調整できること
水稲の場合は成長をきれいに制御することが出来、蛋白含有率を抑えておいしい米が簡単に作れる。この調整可能であることを元にトマトなど果菜類では、栄養診断しながら施肥することも出来る。この辺りをどう有機でやっているのかは誰も明らかにしていない。栄養診断は、施肥削減を目的に実施され、簡単なパックテストで誰でも出来るしオーダーメイド施肥として農協が斡旋している時もある。
・肥料の過剰は大抵の場合作物には問題が無い
植物に影響が出る前に水系など環境の方がセンシティブであると言っていい。日本の農業では窒素過多以上にリン酸過剰をいかに削減するかと言う状況にある(それを策定しろと言う研究上の命令が・・・)。生の有機資材を使うのでなければ、普通の有機質資材は燐酸が比較的多い。生の有機資材を使うことは、アンモニア発生など土壌に過大な負荷をかける。
・有機農業は生産性が低い
唯一、有機農業が慣行農業に比べて環境負荷が少ないとする科学的根拠ある話は、ドイツのHaas博士はじめ、LCAの論文に登場する程度である。それも、同じ生産量を確保するためならより多くの土地を必要とするため土地面積辺りの環境負荷は少ない、とするだけで、生産物辺りの環境負荷は慣行と有機で同等であるというのもほぼ一致した見解だ。だが、日本・アジアの有機農業で真っ当にアセスメントが行われた例は無い。
・有機農産品がおいしいのは適時収穫だから
ずいぶんと苦労した割成果の無い農業試験場の会議資料レベルの報告で、査読論文で挙がった例は無い。況や、おいしいとする事実は同好会単位であって、査読論文で上ったことも無い。
それでも、豊かな食の幅を広げる、と言う意味で、有機農産品と言う乙な味を提供することは、消費者には重要だろう。韓国の有機農業研究所の知人が来たら、きっと有機食材のレストランに「日本流」を見せに出るし(つくばに一軒ある)、ムスリムの人には安心して食べてもらえるからマクロビの店(高山市にある)を紹介するだろう。
・・・農水省で韓国の人を迎えた時数日間弁当生活で、私の職場に来たとき近くの中華料理屋で食べたら、それが一番旨い飯だと言われた日にゃあ・・・日本の食は有機云々以前の問題か?と震撼したけど。
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