ISBN:4106102323 新書 武村 政春 新潮社 2007/09 ¥714

 面白く読めた科学エッセイ、しかし良く書けているだけにヴォリュームの不足が悔やまれる一冊。
 先ず核酸(とDNA)から入り、もうひとつの重要要素RNAの働きを提示する。ここで結構ページを費したが、提示したかったのはRNAの重要性であり、これがさらに広がって細胞小器官(リボゾーム、細胞質にも少々)へと広がる事によって初めて発現される機能である。DNAワールドと言うドグマに対するアンチテーゼとしてのRNAの重要性(RNAワールド)を展開するが、そこで終わればただの生化学者のマスターベーション、が、終わらないのがこの本の良かったところである。
 即ち、DNAという「比較的」安定なバックアップコピーから不安定で熟成が必要なRNAへの移行、たんぱく質合成に関わるまでの「不確実性」を経るという生化学的ステップは、DNAの解析の解析は結局解析開示ではなく単なる生化学的な技術の一ニッチを占めるだけの存在になる、というものである。
 この件に関しては生命倫理、環境倫理と言った側面からも引用を行い、話の展開も素晴らしいのだが、いかんせん話が短か過ぎる。
 まあ、DNA崇拝を砕くにはRNAという不確実性という絶対的な対立軸を打ち立てる必要があったのであり、そのことにページを割いたのには、世間の生化学生半可通のドグマ対策に必須だったとはいえ、終盤の議論の実りの多さがあっさりしすぎた。

 先日、性格を要素に要約還元して理解することも行動で集約し還元することにも、帰納的意味はあっても演繹的に用いることはナンセンスであるという旨を頴田が、同様の事がDNAに関しても言える。生命のミステリーなどと冠して遺伝的障害が取り上げられるテレビ番組があったが、生命には遺伝的冗長性(21のアミノ酸をコードするt-RNAは基本複数ある、というのは高校生物で習うことだが、たんぱく質レベルでノックダウンさせても異常が認められない場合がしばしばある、というのは「生物と無生物のあいだ」等にも記載があるとおり。これはより高位の冗長性といえる)があることを告げないのは全く片手落ちである。では遺伝的疾患とは何か、といえば、極まれな脆弱性の発現、でしかないといえよう。

 軽く読めるエッセイなので、結構おすすめであることに変わりは無いが。

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