絵はがきの街

　出身高校は山の麓にあって、そこから山懐にある団地を奥へ。さらに山の中へ谷間を歩いてゆくと、昔うち捨てられた神社がある。浪人が決まった春に後輩に誘われて行って初めて知ったが、後輩はどうして知っていたのだろう？もう15年以上前だから今はどうなっているものだか。朱塗りの柱は既に色あせていたが、まだ形を保っていた社務所には、それがまだ鮮やかで訪れる人も多かったに違いない頃の絵はがきがあった。「絵はがきの街」を聞くとその神社が今も目に浮かぶ。
　そのまえに気になるのは15年以上来ていなかったので出身校。どうなったものかと行ってみると、南校舎は建て替え、妙に派手な色に北校舎は塗り替えられていた。私を含めた卒業生に寄付を頼って作った中庭は取り壊され、体育館は建設中。昔のままなのは用務員室だけだった。私が卒業するとき理数科で通算1000人目の卒業生が出たので、そいつを奴を放り込んだ池は健在、脇にあった八重桜はなくなっていた。風呂屋の脱衣所にもまだあるか疑問なビン飲料の自販機もなくなっていた。これのリンゴを冷水機の水で倍に薄めたのが好きだったが。広くなった校庭では野球部が練習、他に人気はない。高校に来なくても部活には出る、なんてやってたもんだが・・・
　時は流れた。
　思いをはせた神社の廃墟は時間的にやめ。
　高校からの帰り道、友人や後輩達と遠回りして通った竹林、消毒の匂いがした養鶏場、思いでのあるところは多かったが、水田の多くが宅地に転用され、太い道路が通るようになって探すことを断念せざるおえなかった。
　妙な感傷である。
　目的はないがこの時期にいいところ、と言うことで梅林公園に行く。その名の通りたくさんの種類の梅の木があり、濃厚な花の香りがする。昔から開発されていたこのあたりは、大学に入る直前に雪の中の梅を写真に撮りに来たときと変わらない。何となく安堵を覚えながら、でも私の思い出の多くは今は宅地になった田畑にある事を考えると寂しい感じがした。
　小学生の頃から通っていた市立図書館は閉館した後だった。窓がアルミサッシになっていたが、ここも変わらない。近くにあった妙に古くて「高所物件」と路上観察学会で言うドアのある建物は取り壊されていた。

　この街で19年、周っておきたいところはたくさんあった気もするが、具体的な何かは浮かばない。それが点の情報ではなく面の情報、暮らしてきたということなのだろう。